探偵うんちく「グレンエルギン」_六本木探偵バーANSWER

グレンエルギン(Glen Elgin)

スコットランドには多くの蒸溜所が存在する。
どの蒸溜所にもそれぞれの特色があり、興味を引かれる工場ばかりだ。
ところが、複数の蒸溜所を見比べてみると、ある共通した建物が建設されていることに気づく。

乾燥塔と呼ばれる特徴的な三角屋根をした「パゴダ」である。
パゴダとは仏塔という意味で、その塔に似ていることが由来になっている。
この建物は発芽した大麦を効率よく乾かす、乾燥塔。
よって屋根の上部が吹き抜けになっており、通気口の役割を果たす。
設備の上部へいくに連れて細くなってく三角屋根の先端には、ピラミッド型をした美しい尖がり屋根。
この珍しい造形がスコットランドにある蒸溜所の象徴にまでなっている。

このパゴダと呼ばれる乾燥塔の構造を設計したのは、グレンエルギンに住む建築家「チャールズ・クレー・ドイグ」だ。
ドイグが設計した蒸溜所の数は100以上とも言われ、蒸溜所建築が盛んになった19世紀後半には、設計のスペシャリストとして名が広まったという。

しかし現在では、スコッチモルトを語る人の中に、彼の名を知る者は少ない。
彼の存在なしでは、今日のスコッチモルトには出会えなかったはずなのに。
彼が設計した蒸溜所の中には、バランタイン、タリスカー、クラガンモア、ロングモーンなど多数の有名ディスティラリーがある。
ロングモーン蒸溜所においては、日本のウィスキー製造の第一人者「竹鶴政孝」が留学時代に研修を行っていた蒸溜所でもある。

ドイグが設計に携わった蒸溜所の一つに「グレンエルギン蒸溜所」がある。
知る人ぞ知るスコッチモルトウィスキーだ。
バーに行けばどこにでも置いてあるような定番ボトルではないが、その味わいはフルーティでスムーズ、ハイランドらしい親しみやすい香りだ。
ハチミツのような甘みが、さらに奥深い味を引き出す。

ウィスキー評論家でもあるマイケル・ジャクソンによれば、「モルトウィスキーとして将来的に栄えていくだろう」と賞讃したほどだ。
またグレンエルギンは、スコッチブレンデッドウィスキーの「ホワイトホース」の原酒にもなっており、その風味がいかに安定しているかが伺える。

しかし残念なことに、パゴダの設計者であるドイグが手掛けた「グレンエルギン蒸溜所」には、あの肝心なピラミッドは存在しないのだ。
なぜパゴダを取り入れなかったかは不明であるが、当時は資金面においても余裕があったけではなく、不況が迫っていたなかで建築に費用をかけることができなかったのかもしれない。

ドイグはグレンエルギン蒸溜所を建てた後、しばらくはスペイサイド地域に蒸溜所が新たに建設されることはないと予言した。
その予言通り、スペイサイド地域では以降60年間、新たに蒸溜所が作られることはなかったのだ。
グレンエルギン蒸溜所はスペイサイドウィスキーの歴史に、ひとつの区切りを付けた蒸溜所と言えるかもしれない。

さて、その蒸溜所の設計・建築を託されたドイグが考え出したパゴダとは、いったいどんな仕組みだったのか。
なぜ、彼の設計するパゴダが多くの蒸溜所に取り入れられたのか。
それについて少し触れておきたい。

パゴダとは冒頭でも書いたように、いわいる発芽した大麦を乾燥させるキルンと呼ばれる設備の上部のことだ。
ドイグが設計したキルンは以前のそれよりも機能的・効率的であった。
キルンの構造は大きく分けて下部から三段構造になっている。
まず最下部の部屋は炉になっており、ここで石炭やピートを焚くことで煙を発生させる。
その熱と独特の香りを持った気流が上昇し、すぐ上の中間部で外気と混合し麦芽を乾燥させるための適度な温度に調整される。
そして最上部の部屋には金網状の床一面に麦芽が敷かれており、適度に調整された気流がその隙間を通過することで大麦麦芽が乾燥され最終的に天井の通気口であるパゴダから抜ける仕組みだ。

とくに最後の工程がドイグ独自の発想により設計されている。
麦芽が敷かれている最上部の部屋は、外部から見ると上部へいくほど細くなる独特な三角屋根となっている。
加えて高さもそこそこある。
煙の通気口であるその先端にはパゴダと呼ばれるピラミッド型の屋根が設置され、雨が降っても水滴が内部に入り込まないような工夫がされている。
そのキルン全体の形状に、麦芽を効率よく乾燥させるそれまでにない秘密がある。
最下部の炉で発生した煙は中間の部屋で外気と混合し上部のパゴダから抜ける構造だが、この形状が絶妙な煙突効果を生み出し、気流の流れをよりスムーズにしているのだ。

以前のキルンでは建物の形状が円錐となっており、気流の流れに抵抗を与えてしまう。
加えて煙突部も短かったことから、上部へ吸い上げられる力が不足していた。
ドイグの設計した三角構造のキルンは、気流をスムーズに通すアイデアが施され抵抗や天気などの難点を全てクリアしている。
自然の原理のみでいかに効率良く発芽した大麦を乾燥させることができるかという難しい問題を見事に改善したのである。
ゆえに、そのキルンの設計を取り入れる蒸溜所が増えていったのだ。

中には麦芽の乾燥設備を持たない工場でも、蒸溜所のシンボルとしてパゴダ形状の建築を一部に取り入れているところもあったほどだ。
ドイグが設計したパゴダはそれだけ多くの注目を集め、やがてモルト蒸溜所の象徴にまでなったのである。
今でさえ、電動ファンを用いて強制的に気流の流れを作り出すことが容易になったが、資金をはじめ電力も不足していた当時は、ドイグのキルンが主流になっていた。
そんな優れた蒸溜所建築の第一人者が設計したグレンエルギン蒸溜所には、他にも多くの工夫が凝らしてある。
ドイグが手掛けた蒸溜所は多数あれど、そこから生まれる風味や香りに同じものはない。
それぞれが個性ある味わいを放ち、グラスを手にする者を楽しませてくれるのだ。

夏になれば、グレンエルギン蒸溜所のワームタブには今でもイワツバメが飛び交い、100年前と変わらないのどかな光景が広がる。
その地でしか感じることのできない、優雅な大自然からの贈り物。
蒸溜所が佇む景色を頭に浮かべながら味わうモルトには、またいつもと違う美味しさがあります。

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