あのとき飲んだハイボールは、緑に色づく木々のいい匂いがした。
森の息吹を感じるウィスキー・・・「白州」
サントリーの創設者鳥井信治郎の信念を継いだ大西為雄は、京都の山崎蒸溜所に次いで第二の工場建設場所を探していた。
山崎蒸溜所では工場長を務めていた大西は、その経験を生かし良質な水のある場所と日本の風土の活用できる土地を求めていた。
そこで見つけた地、山梨県の山中に流れる尾白川とその周りに息づく豊富な緑。
それが「白州蒸溜所」だ。
ウィスキーは呼吸をしながら熟成を重ねていくもの。
ウィスキーづくりに適しているといわれるスコットランドでは、一年の温度差が少ないとされている。
それを考慮すれば、ニッカウヰスキーの北海道余市蒸溜所は気候などの点ではよりスコットランドに近いと言えるかもしれない。
しかし大西が目指していたのは日本の特徴というものをいかにウィスキーの味に詰め込むかということであった。
日本にだって良い水、良い空気がある、きっとそう考えていたに違いない。
白州の気候を見てみればやはり気温差は多少なりともある。
夏は30度近くまで上昇し、冬になれば零度を下回る。
ウィスキーが熟成をしていく上で、温度は一定であるほうが安定して良いのではと思ってしまいがちだが、実はそうとも限らない。
肝心なのは温度差なのだ。
スコットランドでは年間の温度差はそれほどないにしても、一日の温度差に注目すれば極端なときがある。
夏場、最低気温が10度を下回ることもあれば急に日が差して20度を超える。
しかし、この急激な温度変化が樽で熟成をしていくウィスキーに良い効果を与えると言う。
白州では一日の温度変化は少ないものの、一年を通して見れば適度な気候である。
熟成を行う貯蔵庫内の気温は冬季で氷点下近くまで下がり、真夏のピーク時でも30度以下を維持する。
この気候が白州で作り出されるウィスキーの風味を格別に仕上げる決め手となっているのだ。
この貯蔵庫では人工による温度管理を一切行っていない。
全ては季節ごとに変化する気候が原酒の熟成を進行させている。
夏になり気温が上昇すれば、樽のウィスキーは蒸散を始める。
微量な水分が抜けていくため、樽内の濃度は高まる。
つまりウィスキーが凝縮されていくのだ。
蒸散によって樽の隙間 から染み出す原酒の香りが庫内にたちこめると、独特のいい香りに貯蔵庫は包まれる。
生きている原酒の息吹を感じるときである。
また冬になれば森は冷たい空気に包まれ、気温は一気に零度を下回る。
すると空気が凝縮され、今度は樽の隙間から外の空気を吸い込むのだ。
森の中に佇む白州蒸留所ではあたり一面が緑の香り。
その爽やかな空気をゆっくりと時間をかけて取り込み原酒に磨きをかけていく。
そしてまた夏が来れば、ウィスキーの味はさらに濃縮されていくのだ。
10年、20年と長い年月を経て熟成を繰り返す。
こうして樽の中の原酒はまるで呼吸をしているかのように熟成を重ね、深い味わいへと変化していくのだ。
どうりで白州のウィスキーには、森の香りが漂うわけだ。
まさに森が育んだウィスキー。
森が香るウィスキーとは、そう・・・この「白州」のことである。
中でも白州12年は非常に飲みやすく、お勧めのボトルだ。
美しい琥珀色に加え、しつこくない適度なスモーキー。
同時に香るフルーティさは森の風味を邪魔することなくぴったりと重なり合う。
いつの間にか森林浴をしながらウィスキーを楽しんでいると錯覚してしまうほどの気分に、つい表情が緩んでしまう魔法のウィスキーと言えよう。
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